主要な考慮点
リスクマネジメントの基本的要素
リスクマネジメントの理想形は企業によって異なるとはいえ、 検討すべき基本的な要素は4つあります。もっとも、企業の リスクプロファイルは事業によって大きく異なるので、これら の要素を実際に適用する際には、企業の状況に応じて考 えなければなりません。
- プロセス
他の事業活動と同様、リスクマネジメントもプロセスが必 要です。 いかなるプロセスも目的・インプット・活動・アウトプットが必 要です。リスクマネジメントプロセスの活動には、リスクの 特定・源泉・測定・軽減・モニタリングが含まれます。 また、あるプロセスが有効に機能するためには、目的が規 定されていることも必要です。リスクマネジメントプロセス の目的は企業によって異なるでしょう。たとえば、単にリスク を低減し、業績の変動幅を許容範囲におさめることを目 的とする企業もあるでしょうし、想定外の危機に備えたり、 あるいは積極的にリスクを取りさらなる利益の獲得を目 指す企業もあるでしょう。 - 統合化
多くの企業にとって、従来のリスクマネジメントは企業の貸 借対照表上の資産を守ることに注目し、関連する法的な 問題に特化しがちでした。たとえば、保険を設定したり、 財務リスクを管理したり、環境問題を低減したり、労働環 境における安全・衛生問題をなくしたりするといった具合 です。もちろんこれらも重要ですが、それだけではなく、リ スクマネジメントをより高い次元で活用するための考えが 新たに注目されています。 リスクマネジメントプロセスの関連性は、それが企業の核 となるマネジメントプロセスと統合した場合に強まります。 この新たな考えとは、リスクマネジメントのプロセスを経営 プロセスそのものと統合して活用するという考えです。つ まり、リスクマネジメントを取締役が注目する事項と結びつ けることによってCEOや経営陣は自信をもって企業目的 を達成でき、企業戦略を実現できるようになります。 業種や経営スタイルにより統合の性質や範囲は異なる ものになりますが、戦略決定、事業計画、業績管理、設 備投資資金調達、M&A、デューデリジェンス等、企業の 様々な核となるプロセスとリスクマネジメントを統合するこ とが考えられます。効果的な統合により、リスクマネジメ ントが経営に組み込まれ、それにより持続的に他社より優 位に立ち、業績の改善につながり、自社の企業価値増加 に貢献することができるのです。 - 企業文化
良く設計されたリスクマネジメントプロセスであっても、阻 害するような行動様式が企業に存在する場合は、機能しなくなります。CEOがリスクマネジメントによって現れた危 険の兆しに注意を払わない、報酬制度が株主の長期的 な関心事項とバランスがとれていない、取締役会が戦略 に含まれる前提とそのリスクについて質問しない、リスク マネジメントが戦略的事項に焦点をあてずに日々の些細 なコンプライアンスリスクに埋没しているようでは、リスクマ ネジメントによって反対の声が求められる重要な時に決 定的な役割を果たすことができません。 社内にオープンなコミュニケーションが確保され、知識や ベストプラクテイスが共有され、継続的にプロセスが改善 され、倫理的かつ責任ある企業行動に対するコミットメン トがなされるような企業文化があってはじめて、リスクマネ ジメントも活きるのです。 - 企業インフラ
ここまでリスクマネジメントプロセスの特質、プロセスの統 合、企業文化の強みならびに弱みについて見てきました が、前提として企業に業務を遂行するための十分なイン フラが整備されている必要があります。 企業のインフラとは、リスクマネジメントに関連する企業の 理念、組織、情報伝達やシステムなどのことです。企業 のインフラが整備されていない場合は、リスクマネジメント 方針の設定、リスク選好についての議論、リスクマネジメン ト委員会や最高リスク責任者(CRO)の設置、リスク報告 制度の改善、システムの改善など、さまざまな変革が必要 となります。
これらの要素は、経営者がリスクマネジメントの役割やそ の有効性を評価する際の、ならびに取締役が企業のリス クマネジメントの状況を把握しリスク監視を行う際の、指 針となるでしょう。
自企業のリスクの性質に照らし、取締役会は以下の事項 を検討するとよいでしょう。
- 全社的にリスクを管理するためのフレームワークとな るようなリスクマネジメントプロセスがあるか。それは 戦略に内在するリスクを評価しているか。
- リスクマネジメントが保険で対応する災害や、財務・オ ペレーションリスクといったリスクに特化していないか。 リスクマネジメントを戦略策定など経営プロセスと統 合させるべきか。
- リスクマネジメント活動が全社に分散していないか。 分散化しているなら、各活動を統合することでリスク マネジメントの改善を図れないか。
- リスクマネジメントが有効に機能する上で、企業文化 に問題がないか。
- 経営者や取締役会がリスクマネジメントに関して実 現しようとしている目的を達成するための企業インフ ラが整備されているか。
プロティビティは、全社的または事業別の企業戦略や事業 計画に内在するリスクの評価やリスク管理能力の評価な どの分野において、取締役会及び経営者を支援します。 評判やブランドイメージを損なう、ひいては企業戦略の遂 行の障害になりうるリスクの特定や優先順位付けを支援し ます。